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北野星太郎は、あたしをじっと見つめていた。
その顔は、あたしを急かしていたのかも知れない。いや、何かを待っていたのかもしれない。
しかし、あたしは彼を知らない。あたしが知っているのは、彼が北野星太郎で、あたしは彼の命を奪わなければならないという事だけだ。
しかし、それは言ってはいけない事になっている。
あたしは静かに首を横に振った。
「…そうだろうな」
北野星太郎は笑っていた。
どうして笑うのか、あたしには理解出来なかった。
「いや、なんでもない。気にしないでくれ」
「わかりました」
北野星太郎は、あたしの表情からそれを読み取ったらしい。
あたしは別に知りたいと思わなかったので、素直に頷いた。
「…君は、誰だ?本当に迷ってここまで来たのか?」
「わからないんです」
「記憶喪失か」
うまくいった。
あたしはそう思いながら、無表情で彼を見つめていた。
「帰る場所は?」
「ないです」
わからない、と答えるべきだったと後悔した。
しかし、北野星太郎はあまり気にしなかったようだ。
「…名前は?」
北野星太郎の瞳をはじめて見た気がした。
みたことのない真っ黒な瞳だった。
「わからない。わからないです」
「そうか」
北野星太郎が目を細めた。その変化に気がついて、あたしはやっと気がついた。
ああ、知らないうちにあたしは北野星太郎を異常なまでに見つめていた。
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