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…そんなことは……些細なことだ。
双樹にはそれらはさして重要なことではなかった。
容姿に恵まれた双樹だったが、それを武器のようにしている弟の政樹と違って、もともと自分の顔や体にそこまでの思い入れはなかったから。
傷痕なんかは、服を着てしまえばほとんど見えないわけだし、むしろあれだけの傷だったにしては綺麗に縫合してもらっていると思う。
ただ問題は――…
それを見ることによって、事故を思い出してしまうやすみの方だった。
――半年ほど前に起こった事故。
それに巻き込まれてしまい、自分が意識不明だった3ヶ月間。
その間のことは、双樹にはほぼ記憶がなかった。
うつらうつらと長い長い夢を……しかもそれはひどく曖昧な……見ていたような気がする。
意識がハッキリと戻ったのも、目覚めてしばらくしてからだ。
『双くん!』
ひどく懐かしいような、逆にずっと聞こえていたような……
そんなやすみの声に目覚めた双樹の体は長期間の寝たきりによって、著しく筋肉を失っていた。
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