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「おー…くら、さん…。」
「なんでそんな他人行儀な呼び方するん?章大…。なぁ、なんで俺の前からいなくなったん?なんで急に…姿を消したん!?」
思わず呼び慣れた愛称を口にしようとしたが、どうにか思い止まって言い慣れない名前で返事をする。
ここでは誰が見ているか分からないというのもあったが、なによりもその名を呼んでしまったらせっかく封じ込めた記憶や想いが溢れ出してしまいそうな気がして…不安を感じてん。
やけど、その呼び名が相当気に喰わなかったんやろう。忠義は、整った顔を歪めて心底嫌そうにため息をひとつついた。
そして、詰め寄るようにして僕に問うてきたのだ。「何故だ」と…。
何故か、やなんて言えたら、言ってるよ。
理由はあった。なかったはずないやん…。
でも、言えへんねん。これは僕の胸の中に一生閉じ込めていなきゃいけない秘密、なんやから…。
「それ、は…。」
「俺、あの後…あの後、必死に探してんやで、お前のこと…いや、過去形やない。今現在も探してた…。」
「た、だよし…。」
眉をひそめ、切なそうにそう言う忠義を見て、僕は思わず呼んでしまった…忘れようと努力した名前、を…彼の存在、を…。
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