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ダメやった…名前は呼んではいけなかってん、絶対に…名前を呼んでしまえば…もう後には戻れないとわかっていたのに…それでも僕はその名を呼んでしまった。
呼んだら最後、封印していたはずの彼との思い出や彼への想いが塞きを切るかのように、止めなく溢れ出してきた。
出会った日のこと、「好きだ」と言ってくれた日の照れ臭そうやけど、優しい笑顔。初めてデートした日のこと。初めて体を重ねた日の翌朝はお互い恥ずかしくて、中々顔を見ることができなかったよね。いつも僕に向けてくれた優しい笑顔。僕を包み込んでくれた大きくて温かい体。大きくて綺麗な手に僕は何度エスコートしてもらい、頭を撫でてもらったやろうか。
「ただ…よし。」
「章大…章大!」
1度呼んでしまえば、先程まであんなに抵抗していたのが嘘かのように、すらすらと名前を口にすることが出来た。罪悪感もなく…。お互いアホみたいに、ただただ名前だけを呼び合い、どちらからともなく抱きしめ合った。
想いと言葉と共に溢れ出した涙が僕の頬を伝い、顎から地面へと落下していく。
その様がまるでこれからの僕たちを暗示しているように思えた…。
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