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「はじめまして、大倉グループ専務の大倉忠義です。」
「はじめまして、社長の横山侯隆です。」
うちのブランド会社の社長である侯くんとにこやかに挨拶をして、握手をしたその男を見て、僕は固まってしまった。
そう、まるで亡霊にでも出会ったような…そんな信じられないような事態に、思考回路がぴたりっと停止してしまってん。
やって、大倉忠義と名乗る目の前の男、は、なにを隠そう…。
手の奮えが止まらない。
口ん中がからからに渇いて、うまく声が出せない。
見開いた目も乾燥してしまっていて、少し痛む。
しかし、それでも僕はじっと彼のことを凝視することしか出来ひん。
しかし、彼はそんな僕の存在に気付いていないのか、笑顔のまま侯くんと話続けている。
「今回は、うちが経営しているデパートで自社製品を立ち上げたいと思いまして、御社にそのデザインをお願いしたく、こうして挨拶をしに来た次第です。」
「お話は聞いております。あ、うちのデザイナーの安田と渋谷です。今回、このプロジェクトはこの二人に任せようと思っています。」
笑顔で「よろしく」と差し出された大きな手を見て、僕は激しく動揺してしまう。
彼は僕のことなど、もう忘れてしまったのだろうか…。
差し出された手を握り返し、僕はぎこちなく笑った。
握りしめた手は、昔と変わらず温かく、柔らかかった…。
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