東京大空襲

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私は、耳を塞いでしゃがみこんでいた。 音を遮断してみると、急にこの世界から遠ざかった気がした。 私が見ているこの景色は、まるで大きな写真のようだった。 そのまま目を閉じると、火が見えた。人の苦しむ顔が見えた。爆風で吹き飛ぶ人の体が見えた。なんだか自分が怖かった。 私は立ち上がり、自分の感覚を取り戻す。 今度は急に現実と、繋がったような気がした。 それだけで私の感覚は異様に研ぎ澄まされて、沢山のものが私の中に飛び込んでくる。 風が吹いた。 すると小さな音が聞こえた。 カラ…カラ… 何の音だろう。 カラ…カラ… ちいさな三角形の金属が転がっていくのが見えた。 それは足袋の金具であった。 肉体も服も足袋も、全て焼けてしまったのだ。 そうして残された足袋の金具には、持ち主の苦しみが、悲劇が、虚しさが、悲しみが、ちいさな冷たい金属に詰め込まれていた。 カラ…カラ… 無数の金具が転がる音がする。 カラ…カラ… それは、人々の悲鳴に聞こえた。 カラ…カラ… 人々の苦しむ声が、私の中に飛び込んできた。 カラ…カラ… 悲鳴は私の中で無限に反響し、ちいさな命にこびりついた。 そしていつまでも、私の中に響き続けていた。
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