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「僕は、戦なんかキライだよ」
夕暮れの浜辺に伸びる2つの影。
その主である少年の1人が重く呟く。
「だって、今日隣で喋ってた人が明日は黄泉に下ってるかもしれない…松寿だって…」
松寿と呼ばれた少年―松寿丸は黙ったまま、隣の少年―弥三郎を見つめた。
「…嫡男のクセに情けないとか思ってるんでしょ?」
「…いや、我とて戦は好かぬ」
当たり前であろう?と海に沈んでゆく日輪を見つめ、だが、と継ぐ。
「失いたくないからこそ戦うのではないか?」
「失いたくないから?」
「ああ、不条理に奪いに来るものがあるから、守る為に戦う。それこそが本来の戦だと、我は思っている」
「守る為…」
黙り込み、考えている風の弥三郎に松寿丸は視線を向ける。
立場上、真友と呼べる者はきっと、互いだけだと思っているからこそ、こんな無意味な話が出来るのだろう。
どんな大義名分並べようと、戦は戦。それは大きな時世の流れに発生した偶然に他ならない。
それでも、少しでも、そこに己の意志を介入させられるなら。信念というものを振りかざすことが出来るなら。
守る為に、大人になって戦場に立つ日が来ても、この笑顔と共に居たいと松寿丸は思っていた。
「……なら、僕の知らない所で居なくなったりしないで」
「……」
「強くなるよ…だから、松寿も僕の知らない所で居なくなる様なことしないで」
「うむ…約束しよう」
「約束、絶対だよ?」
「勿論だ」
宵闇に溶け始めた影は指切り、誓う2人を写した。
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