其の壱・少年の日の約束

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「僕は、戦なんかキライだよ」 夕暮れの浜辺に伸びる2つの影。 その主である少年の1人が重く呟く。 「だって、今日隣で喋ってた人が明日は黄泉に下ってるかもしれない…松寿だって…」 松寿と呼ばれた少年―松寿丸は黙ったまま、隣の少年―弥三郎を見つめた。 「…嫡男のクセに情けないとか思ってるんでしょ?」 「…いや、我とて戦は好かぬ」 当たり前であろう?と海に沈んでゆく日輪を見つめ、だが、と継ぐ。 「失いたくないからこそ戦うのではないか?」 「失いたくないから?」 「ああ、不条理に奪いに来るものがあるから、守る為に戦う。それこそが本来の戦だと、我は思っている」 「守る為…」 黙り込み、考えている風の弥三郎に松寿丸は視線を向ける。 立場上、真友と呼べる者はきっと、互いだけだと思っているからこそ、こんな無意味な話が出来るのだろう。 どんな大義名分並べようと、戦は戦。それは大きな時世の流れに発生した偶然に他ならない。 それでも、少しでも、そこに己の意志を介入させられるなら。信念というものを振りかざすことが出来るなら。 守る為に、大人になって戦場に立つ日が来ても、この笑顔と共に居たいと松寿丸は思っていた。 「……なら、僕の知らない所で居なくなったりしないで」 「……」 「強くなるよ…だから、松寿も僕の知らない所で居なくなる様なことしないで」 「うむ…約束しよう」 「約束、絶対だよ?」 「勿論だ」 宵闇に溶け始めた影は指切り、誓う2人を写した。
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