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15分。まだバスは来ない。私の他にバス待ちをしているのは、あまり話した事のない後輩が数人、だけだった。
不意にサイレントモードにしていた携帯が光っている事に気がつく。青いランプ、電話だ。
「もう帰り?」
着信に「父」と出ていたのを確認した私は、第一声にそれを放った。
「そうそう、もう終わった。まだいるの?」
この時間帯に父さんから電話がかかってくるのは、仕事が早く終わり、まだ帰っていないならひろってく、という用件くらいだ。
「いるよ、バス停ね。じゃ」
もう何十回と繰り返したやり取りだ。通話はほんの10秒もあれば事足りる。
それから5分も立たないうちに職場の近い父さんはやってきた。ベンチから腰を上げ、車に向かう私に後輩達は業務的な笑顔で「さようなら」と声をかける。私は返事も適当にさっさとその場から離れた。
「おつかれ」
所々錆の見える白い軽トラックの助手席に私を迎え入れると父さんはそう言った。
「あー」
私はなんともつかない返事をするが、父さんは気にする様子もなく車を発進させる。
左手にギア、
ロー、セカンド、がこん、がこん
その動きを見るたびに車が「機械」だ、ということを再確認させられる気がした。
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