行ける所まで…

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「チィーッス。」 その声と顔を見た時、直人は安心したんだか不安になったんだかわからなかった。 第一、この部屋に家族(義理)以外の人間が来る事自体、類い稀な事なのだ。 「お、その顔はさてはエロサイトを見てたな。」 どこにもこの空気に遠慮を示さない弘也は、ずんずんと部屋の内部へ進んでくる。 「いいんだぜ?遠慮しなくても。」 (お前はしろ。) 「しっかし、殺風景な部屋だなぁ。」 (大きなお世話だ。) 「どっかに無いのか?エロゲ。」 「何の用だよ。」 「遊びに来たの。」 ふぃーと溜息を吐くと、呼応して弘也も鼻息をつく。 「しっかし、お前のねぇちゃん相変わらず綺麗だよなぁ。」 「悪かったな。」 「褒めてんだよ。なんかさぁ、禁断の恋っていうの?いいよなぁ。」 「それ褒めてないよ。」 「まぁ、まぁ。」 ベッドに断りもなく座る弘也に直人はもはや責める気合いも失せた。 「まさか引きこもっているのは…。」 「個人的嗜好。」 「近親恋愛?」 相姦よりはマシだなと思ったが、言葉にはしない。 「そんな風に見れないよ。」 「なんで?」 日常的な触れ合い(非合法)で恋愛対象から洩れたのか、それとも彼女を縁戚か他人か判別しきれないからか。 「だって姉弟だもん。」 とっさに出た最高の理由だった。 「俺、祥子さんの事…。」 ハッとして口を結んだ。つい出てしまった癖を、弘也は見失わない。 「…お前、ねぇちゃんの事、名前で呼んでんの?」 「悪いかよ。」 「非常に興味深い。」 そこに敬愛が滲み出ている事を、弘也は感じ取ったようで、ススッと顔をよせてきた。 「だって今時、姉さんの事、さん付けで言うか?」 「言う人もいる。」 「そりゃ特殊な…。」 弘也はまさかと居住まいを正した。 「お前、特殊な…」 「…。」 「いつだよ?」 「…。」 「悪い…やり過ぎた。」 「中学の時だった。」 おもむろに口を開く直人に、弘也は眉一つ動かさなかった。 「酔っ払いの喧嘩で、父親は死んだよ。」 「喧嘩?」 「うん。」 直人はピストルに似せた右手を、弘也の額に付ける。 「相手が悪かったんだ。」 それだけの事だった。
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