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よく考えてみても、内心の視界は開かず、直人は頭を振って行き交う人達を眺めた。
ざっくばらんに人は存在する。意気揚々と人込みを歩く人もいれば、意気消沈として人波から吐き出される人もいる。
そしてこうして端からその領域に入り込めない人も…
頭のてっぺんを祥子の拳が当たり、直人はフギャと成りにあわない悲鳴を漏らす。
「考え込んでも仕方ないでしょ?」
「結構強くやっただろう?」
頭を抱えて直人は睨み上げる。
「全然っ、寧ろ手加減したぐらいよ。」
自慢する所でもないくせに、祥子は胸を張る。
馬鹿馬鹿しくなって直人は立ち上がり空気を目一杯吸い込んだ。
都会の空気は汚いというが、それ以上に毒された体が取り込めばいくらかすっきりした。
「あ。」
そう直人が声を上げた時、丁度涼子の横目とあった。
「如月君。」
涼子はフリルのついた薄地のロングスカートをはためかせ、隣にいる祥子にも目線を通した。
姉妹とは恐ろしいもので両者共に柄違いだった。
「偶然だね。」
「全くだ。」
祥子を庇うように感想のない言葉を直ぐに継ぎ足す。自分でもつまらない奴だと思う。
涼子には関係ないのに、彼女が姿を見せると敵意が爽やかに体内を擦り抜けていく。
知られたくない二人だけの秘密を、ただ久方ぶりに再開しただけでぶちまけた無神経さと、何かを掻き回したい悪意に満ちた笑みが思い浮かぶ。
頭のもやもやを綺麗サッパリ拭き取り、薄明の床を漆黒に染め、ムカムカした分かりやすい感情だけが残る。
実に素晴らしい。
こんな簡単に迷いを振り払える素材が少なくとも後半年は目の前にあるのだ。
「今日もデート?」
その淀みない笑みと声で苛々の黒板に奥行きが生まれる。
「お前と会わなきゃそうだろうな。」
皮肉に対して涼子はまだ余裕を呈していた。
他に交わす言葉が見付からず、敢えて探すのもくだらなく、それでも涼子はじっと直人を見つめる。
「なんだよ。」
祥子へ単体攻撃でもするのかと思ったが、明らかに今彼女の照準はこちらに向いている。
「なんでもない。ただ…」
と涼子は直人の脇を通り、耳元へ言伝を残した。
「姉さんをお願い…。」
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