あの人の手に触れる距離まで…

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「来る者はとりあえず拒め。だからな。」 由香里は雨雲を呼び出しかねない溜息を吐き、 「直ちゃんの心の扉が開くのはいつになるのかねぇ。」 「俺は開いてんだけどな…」 直人はフェンスに寄り掛かり、天を仰いだ。 「皆中身を見ると慌てて逃げ出す。」 「玉出箱?」 「びっくり箱。」 見合わせ笑う。自嘲した笑い。 「でも…それでいいと思う。」 「諦めてんだか、受け入れてんのか…。」 「両方さ。とどのつまり、俺には全部投げ出す事もできなけりゃ、全部取り込むこともできない…。」 直人は両腕を腰の高さに持ち上げ、拳を固く成形する。 「誰も知らない。俺の中身なんて。けど解らなくて普通さ。俺達はそういう風に出来てんだから。」 由香里の熱い視線を感じた。横を向きニッコリ微笑むと、由香里の右手がそっと直人の頬に触れた。 「でもそれも長くは持たないよ。」 うっすら浮かべる涙に直人は驚く。 「自覚のない涙を流す人は、いつもどこかで溜め込んでるんだよ。今の直ちゃんみたいに…。」 目元を摩る。熱い液が指先に伝わる。 「なんでだろ?変だよな、俺。」 由香里は首をブンブン振り、静かに指先を引っ込めた。 「変じゃないよ。あたしがもらい泣きするくらいだから。」「説得力にかける…。」 途端に背後にあるドアが広々と開き、中から仰々しい連中が吐き出される。 出てきた面々は苦笑いを浮かべ、引けた腰を中々直せずにいた。 「何してんだ、お前ら。」 「スクープ取りごっこ?」 弘也は両手でエアカメラを掴む。 「趣味悪いぞ。」 「それをいうならお前だってそうだろ?」 「どういう意味だよ?」 突っ掛かる直人に弘也は背筋をスッと伸ばして眼を光らせる。 「言いたい事があるんなら、てめぇのその口で言えよ。ただ起きて飯食って寝る位で人間気取りか?」 「弘也…言い過ぎっ。」 結が声を強張らせる。 「あ、あのさ…そういうんじゃなくて…、もっと皆を信頼してって事。」 信頼しようにも出来ないのが現状だった。直人は自分を信頼できなかった。 「自分でもどうしようもない位テンパったら、あたし達がいるから。」 ふとドアの陰から涼子が姿を現す。 そういう事か…と直人は溜息をついた。 「涼子か…」 「いや俺。」 弘也は誇らしげに胸を張る。
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