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自信に満ちた自嘲。
「引き合わせてくれた涼子に感謝だな。」
「…。」
「分かってんだろ?」
恭子はか細く、うんと言う。
「あれはまだ九つの時。」
語り出す恭子の手が縮む。
「私の母親が死んだの。お腹の子は無事だった。」
直人は涼子と出会った初めての場所を思い出す。
「私、産まれた子を怨んだわ。ありがちだけど。」
「ありがち。」
「でも随分続いたの。」
恭子は止まりがちな足を踏ん張って進ませる。
「あの娘が死ぬまで続いた。」
「そう。」
「元々未熟児だったの。保育機があの娘の家だった。私毎日足を運んだわ。」
祈っていたわけではない。寧ろその逆だろう。
「恨めしやって睨み続けた。そしたらある日ポックリ。」
商店街を抜け、ロータリーを突っ切り、高架下を潜る。
「呪い殺しは大成功。悲しくもなんともなかった。」
共感できる節が直人にもあった。
「それからね。涼子が出てくるようになったのは。お父さんにも友達にも見えなくて、毎日毎日あの娘が姿を見せると金縛りにあうの。」
なだらかな上り坂から先は住宅街になり、あてどなく二人は進む。
「でもびっくりした。直人にも見えるなんて。」
「クラスの連中も見えてたぞ。」
「あの娘がそうしたかったからじゃない?…あの娘、私の前に現れてもただ笑うだけで、なんも責めないの。」
「許してんじゃないの?」
恭子はブンブンと首を振る。
「許してないよ。きっと。」
「?」
「多分許したらそれで終わりになっちゃう。終わりにしたら、私のしてきた事は忘れちゃう。」
「でもなんか損してるな。」
恭子ははにかんでまた首を振る。
「損得で打算できるほど甘くはないの。それは直人だって分かってるでしょ?」
仕方なく頷く。
「そういうもんなの。だからって、自分をきつく責めたりはしないわ。だって、呪い殺しって非科学的じゃない。タイミングが悪かっただけかもしれない。ただ…。」
と恭子は更にきつく直人に縋る。
「私のしてきた行為そのものは許せない。あの娘を呪い続けたあの日々は。」
「…。」
俺が許すとは言えなかった。根拠となる自信も勇気も強がりもなく、ただただ隣で歩き続けるこの切ない時が余りに残酷で、直人はふと目に止まった小さな公園に恭子を連れ込む。
「ここよ。」
「?」
「涼子が初めて現れた場所。」
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