愛してると信じ合えるまで…

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偶然に違いない。いや、偶然でなきゃ話にならない。 今は偶発と回想と口惜しさに、ぐっと耐えなければならない。 「ちょうどあのあたりだったかな?」 と恭子は直人から離れる。ジャングルジムの手前でこちらを向き、情けない笑顔を見せる。 直人は溜息交じりに歩を進めた。 「友達と王様ゲームしてて、グルグル回ってたら一人増えてたの。私の前を走ってて、振り向いたらニパッて笑って言われた。」 ジャングルジムにそっと指を触れた恭子は、当時の激震をなぞるように歩き出した。 「お姉ちゃんって。」 その背中が線になっていく。 思うより早く手が掠める事なく恭子の肩を掴み体は紛う事なく包まれた。 恭子の体は震え、そのまま重みが傾く。 「俺、側にいてもいいんだよな?」 「なんで聞くの?」 「姉さんがいいなら…。」 含み笑いをして恭子は振り向き、直人へ口付けをする。 「至極当然な事聞くのね。」 「だって釣り合い取れないよ。」 外見だけに触れて言っている事を恭子は知っている。 「知らないの?」 悪戯顔で恭子は言う。 「学内でひそかに女子はランキングつけてるのよ。でもって、あなたは去年第三位。」 どこまで信憑性があるのか疑わしい。しかし三位というびみょ~な立ち位置には信頼性があった。 「ちなみに今年は一位。」 「…」 信じた自分が馬鹿だった。 どうせ巷で流れた噂が巻き上げた渦にでもなって、校内に旋風をまいただけだろう。 「信じないの?」 「リアルに無理。」 ほくそ笑んで恭子は背を向ける。 「だよね。だって私経由で来たチョコやら手紙やらの山は全部捨てちゃったもの。」 「…。」 「酷いでしょ?私。」 直人は何も言わず、恭子を抱き寄せて深くキスをする。 「そういうのありだと思う。」 「ないよ。」 恭子もキスで返す。 どこから、いつから、なにから、こうなったのか。 はっきりとした意志もなく、ただ直人は恭子を求める。 「涼子の代わりなんかじゃないからね。」 「分かってる。」 分かってなかった。 涼子への罪悪感を引きずり、恭子は決して自分と涼子を重ねなかった。そもそも、恭子がそんな安易に過去に振り回されるとは思えない。 でも敢えて言うのは、自分への配慮なのかもしれない。 姉と弟は、いつからか少女と少年になり、あどけないキスを繰り返していた。
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