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実母や義父を、そんな直人は遠ざけ、直人自身それが一番望ましかった。
ただ義姉の祥子だけは別だった。
何かあるたびに部屋に押し入っては、先程のような軽装で自慢の肢体を見せるように話し掛けてくる。
酷い時は下着姿でやってきて、新着の感想を迫られたものだ。
たかだか一つ違いの姉は家族を懸命に死守したがっているのか、血縁外の母とのパイプを求めているのか。
直人は疑問視しても探求してみる気はなかった。
別に夏日が引きこもりの根本原因ではない。他に理由が見つからないからそういう事にしている。
だから海水浴なんていきたくなかった。
「直人ぉ~。」
黒のビキニが波打ち際で直人を呼ぶ。
赤の海水パンツと黄土色のTシャツは着心地が最悪で、でもやけに人がいる為に逃げ場が全くない状況が、直人を不機嫌にしていく。
元々姉があんな奇行に出なければ、こんな所に来なずに済んだのだ。
部屋に入るなり鍵をかけ、新調したビキニを見せようとバスローブを外した姉は真っ裸だった。
気が動転しないほうがおかしい。慌てて姉の足元に落ちていたバスローブを拾おうとしたが、姉は直人ごと体をベッドに倒れ込ませる。
「ちょっと祥子…。」
敬称を嫌うように、祥子は直人の口を塞いだ。
ニヤリとした悪意の表情に、直人のそれは付いて行けなかった。
「ここで私が叫んだら、どうなるかなぁ?」
目が点になった。そのまま元に戻らないかのような衝撃だった。
「取引しましょう。」
脅しの意訳である。
「海で皆と泳ぐ?」
眼力に圧され、直人は頷いた。
「泳ぎたい?」
悲しくも頷く。
「それでは行きましょう。」
この野郎と頷く。
「よし取引成立。」
もはやお前は用済みとでもいうように、祥子はバスローブを颯爽と羽織り、部屋を出ていった。
憤りはなかった。風呂上がりだからかもしれない。姉の紅潮した頬と耳がハイビスカスのように染まっていた。
後から振り返って、というよりここに来て、やっと直人は落ち着いて怒りを取り戻した。
姉に叫ばせれば良かったのだ。 それなのに、安々と彼女の術中に嵌まった。
結局自分に腹がたってしまう。損な性格である。
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