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依り所を失い、自信は揺らぎ、直人は狼狽する。幻聴覚の溢れたこの部屋にではなく、自分が禁忌としてきた事実に。
足はすくみ、腕は痺れ、視界は反転し、ふらつく体は無意識に部屋のドアへと向かっていた。
祥子が部屋の前でお気に入りのワンピースを着ていても、その色合いや模様など眼中になく、直人は彼女を押し退けた。
祥子が何か言っている。
声は遥か遠く、気が付けばマンションの屋上に直人はいた。
烏のつがいがフェンスの上で羽づくろいをしている。
静かな午後の昼下がりに、直人の心は乱れていた。
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