前半

1/9
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ

前半

 まったく勘弁してほしい。  二月になってプロ野球もキャンプインしたが、我が金閣志(きんかくし)高校野球部はとっくの昔、三学期初日から地獄の朝練メニューが続いてる。  俺の名前は沢村塁(るい)。 この三月に17才になる。  金高ではちょっとした有名人だ。 何せ去年夏の県予選準決勝でノーヒットノーランを達成したプロも注目する超高校級右腕だからね。  ま、決勝ではボコボコに打たれたんだけど…。  ただ、言い訳じゃなくこれには理由がある。  その理由こそ、俺の現在の悩みだ。 「おはよー、塁ちゃん、今日も早いわねー」 「おはよっす」  安奈坂を駆け下りてくると、いつものように花屋のおばちゃんにご挨拶。  でもいいかげん、その呼び方やめてくんないかな。「ルイちゃん」って女みたいで小さい頃から嫌なんだ。 「あら塁、車に気をつけるのよ!」  交差点手前で今度は『美容室たむら』のママさん。この人には少なからず恨みがある。  一度女の子みたいなパーマをかけられてしまったことがあるのだ。 「だって塁ちゃん、あんまり可愛いから」って、冗談じゃない。小学生だった俺は寝るときさえ帽子を被って縮毛矯正したんだ・・・っと、急がなきゃバスに乗り遅れる。  大通りに出ると、ヤバイ、もうバスが迫ってきてる。  待って、乗ります、金高のエースが乗りますよっ!  何とか間に合った。  朝練の唯一の取り柄はバスが空いてることと、女子高の連中に冷やかされないで済むこと。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!