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前半
まったく勘弁してほしい。
二月になってプロ野球もキャンプインしたが、我が金閣志(きんかくし)高校野球部はとっくの昔、三学期初日から地獄の朝練メニューが続いてる。
俺の名前は沢村塁(るい)。
この三月に17才になる。
金高ではちょっとした有名人だ。
何せ去年夏の県予選準決勝でノーヒットノーランを達成したプロも注目する超高校級右腕だからね。
ま、決勝ではボコボコに打たれたんだけど…。
ただ、言い訳じゃなくこれには理由がある。
その理由こそ、俺の現在の悩みだ。
「おはよー、塁ちゃん、今日も早いわねー」
「おはよっす」
安奈坂を駆け下りてくると、いつものように花屋のおばちゃんにご挨拶。
でもいいかげん、その呼び方やめてくんないかな。「ルイちゃん」って女みたいで小さい頃から嫌なんだ。
「あら塁、車に気をつけるのよ!」
交差点手前で今度は『美容室たむら』のママさん。この人には少なからず恨みがある。
一度女の子みたいなパーマをかけられてしまったことがあるのだ。
「だって塁ちゃん、あんまり可愛いから」って、冗談じゃない。小学生だった俺は寝るときさえ帽子を被って縮毛矯正したんだ・・・っと、急がなきゃバスに乗り遅れる。
大通りに出ると、ヤバイ、もうバスが迫ってきてる。
待って、乗ります、金高のエースが乗りますよっ!
何とか間に合った。
朝練の唯一の取り柄はバスが空いてることと、女子高の連中に冷やかされないで済むこと。
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