甲子園

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「先輩、巽見なかったっすか?」 部室のドアが開き、長身には似つかないやや幼い顔付きの少年が声をかける。 5人の2年生の内の1人、尾藤 裕也であった。 「巽?そういやグラウンドにいたぞ。受けてもらうのか?」 「はい、なんかまだちょっと投げ足りなくて…」 尾藤のポジションは投手。190センチを超える長身と肩のほぼ真上から投げる独特のフォームから放たれる角度のある直球は最速144㌔を誇る。 やや制球に難があることを除けば、間違いなく超高校級の投手である。 なによりも特筆すべきことは、彼が中学の2年から野球をはじめたということである。つまり、彼の野球歴はわずか3年しかなかった。 「あんまり焦るなよ。投げたらしっかりケアするのを忘れるな」 「はい、ありがとうございます。ちょっと投げてきます」 尾藤は声をかけてくれた先輩に頭を下げてグラウンドに向かう。 「あいつも頑張るよな」 「あぁ、他の4人と比べて年数が短いってのもあるんだろう」 「短いけどな…俺の次のエースはあいつだよ」 『あぁ』 その勤勉な性格とひたむきな練習態度は先輩達の心もきっちり掴んでいた。
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