たった一試合のエース

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返ってきたボールを受け取った城はミットを外して、両手でボールを拭うようしにて汚れを落としながらマウンドに歩み寄ると、ポンッと香月のグラブにボールを入れる。 「気にするな…いい球だった」 城の言葉に香月も苦笑いしながら軽く言葉を返す。 「あぁ、俺のベストピッチだったよ…長打を狙えばいいものを、あいつ…大人過ぎだろ」 先程の香月の放った球は僅かに芯を外して打ち取る球であった。いかに甲斐であっても、引っ張りにかかっていたら内野ゴロに倒れていたであろうと言える程に精度を高めた香月の決め球である。 「それだけ必死ってことだ…1点1点詰められることの方が怖い…」 「あぁ…」 「まだ3点ある。残り…きっちり抑えるぞ」 「おぅっ!」 香月の力強い返答を聞いて城は戻る。 打席の津村を確認してサインを出すと、香月はすぐさま投球する。 内角の直球。 ブンッ! 「ストライク」 「(……)」 外角に逃げるカーブ。 ブンッ! 「ストライク」 「(こいつは…)」 また外角に逃げるカーブ。 ブンッ! 「ストライクッ!バッターアウトッ!」 5番の津村を三振に取る。 「(スイングスピードは驚異的だが…穴は多いな…)」 続く6番の嘉久を簡単にライトフライに仕留めるとベンチに戻る。
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