たった一試合のエース

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5回の表のマウンドに向かう瀬能。この回はトップの阿久津からはじまる西京打席に気を引き締める。 打席には1番の阿久津。 「(さてさて…どうしたもんかな…相手が瀬能だ…真っ向からじゃ分が悪い…)」 阿久津が考えている間に瀬能は振りかぶる。 「(そうそう、テンポもいい…って!)」 ズバンッ! 「ストライク」 阿久津が頭の中で突っ込んでいる間に審判の腕が上がる。 「(あの野郎…)」 「(前に言っただろ?打席に入る前に考えはまとめとけ…ってな)」 阿久津が恨めしげに瀬能の方を見ると、瀬能は笑って返す。互いが互いを知っている故に一つ一つの動作が隙になる。 瀬能の投じる2球目。 内角の速い球に阿久津のバットが動く。 「(ちっ…)」 キィィィィィンッ! 鋭い音を放った打球は大きく切れてファールになる。 「(遅い直球か…)」 2ストライクと追い込んだ後、3球目、4球目と続けて緩いカーブを低め、遠めと外してカウントは2ストライク2ボール。 瀬能の投じた内角高めの速い球に阿久津のバットが反応する。 「ぐっ…」 キンッ! 手元で食い込むシュートに差し込まれた打球が1塁線に転がる。 「くっ…」 瀬能と巽が取りに行くが間に合わずに阿久津が1塁を駆け抜ける。 瀬能がこの試合初めてのランナーを背負う。
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