たった一試合のエース

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6回のマウンドに瀬能が向かう。 打席には東條。しっかりと足場を固めてゆっくりと足を上げる。 初球、外角へボール球のカーブから入り続く2球目、内角低めの直球で1ストライク1ボール。内角に2球ファールが続いた後に低めに1球カーブを外してカウントは2ストライク2ボール。 6球目に巽が選択したのは外角への直球。東條のバットが動く。 「(外の直球は遅い…)」 既に巽の配球パターンを分析した西京打席は外角の直球…凡打を誘うBPFBを狙う。 キィィィィンッ! 鋭い打球がセンター前に抜ける。 巽がマウンドに駆け寄って瀬能と言葉をかわす。 「ヒットなら問題ないな…」 「あぁ…それにしても案外早く見切られたな…」 「仕方ない…か…隠すのも限界だな」 「任せたよ」 「おぅ」 戻る巽の後ろ姿を見ながら打席に向かう城に視線を移す。 「(頼もしい相方だよ…城…お前と同じな………そういや、今ので60球か…)」 60球、瀬能の医師により最大の投球数と定められた球数であった。しかし、そのことは誰にも話していない。 「(今は…関係ない…)」 瀬能の目には巽の構えるミットがうつる。
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