たった一試合のエース

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6回の裏、1番から始まる好打順に陸が気合いを入れて打席に入る。 瀬能がつけた勢いを消さないためにじっくりとボールを選んでカウントは1ストライク3ボール。 投じられた5球目、内角に食い込む直球にバットを出しそうになるが踏み止まる。 「ボール。フォアボール」 際どい球をしっかりと見極めて1塁に歩くと続く久遠が初球をきっちりと1塁線に送りバントを決める。 打席に向かうのは3番の瀬能。 やはり初球。 キィィィィンッ! 初回に打ち取られた香月の外に逃げる速いシンカーを逆らわずにレフト方向に流す。 レフトの野村が回り込む間に2塁走者の陸が一気に3塁を回る。ホームにボールが返ってくるが、クロスプレーにもならずに陸がホームに滑り込んで2点差に詰め寄る。 2点差としてなお1アウトランナー2塁として、打席には4番の甲斐を迎える。 甲斐が打席に入ると捕手の城が迷うことなく立ち上がり、大きく外した位置を手で指示する。 「(くっ…)」 香月が唇を噛み締めながらも4球、外に大きく外す。 「ボール。フォアボール」 敬遠の四球でランナーは一二塁。打席に5番の津村が入る。 甲斐を避けて5、6番との勝負を安全と判断した城は既に配球を決めていたかのようにテンポよくサインを出すと、香月もそれに応えてきっちりと投げわけて津村、嘉久を続けざまに打ち取る。 トップからの好打順を生かすことが出来ずに6回の攻撃を終える。
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