たった一試合のエース

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既に試合は7回の表、西京学園の攻撃は8番の江嶋から始まるが、瀬能もまた香月と同じようにテンポよく追い込んでいくと5球目、内角いっぱいの直球を詰まらせてライトフライに打ち取る。 その頃になり俄かに西京学園ベンチが慌ただしくなる。 「変…ですね…」 「あぁ…」 城と東條、西京学園の誇る二人が口を揃えて言うのに周りが反応する。 「どういうことだ?」 監督の言葉には答えずに城は帰ってきた江嶋にたずねる。 「今の球…直球だな?」 「え?あっはい…」 城の言葉に頷く江嶋を見て、東條が確信を持ったように話し始める。 「結論から言うと…唯人は万全じゃない…」 『えっ?』 東條の言葉に城以外の全てが声を上げるが、続けて城が話す。 「あいつは俺達以外には力をセーブしてる…」 「そう…阿久津と俺、そして城に対して以外はおそらく6~7分程度の力で投げているはずです…」 さらに周りが動揺する。 しかし、確かに二人の言う通りであった。 瀬能がここまで投じた球は78球、最速は3回の東條への球と先程の回の城への151km、それ以外にも力を抜いた球以外は平均して140km後半を計測していた。 しかし、2回の1、2、3番以降の打順で阿久津、東條、城を覗いた6人に対しての最速は144km…平均は140km前後に抑えられていた。
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