たった一試合のエース

37/117
前へ
/270ページ
次へ
「見事…そう言わざるをえんか…」 一同が呆気にとられる中、ぽつりと城が呟く。 「いくら瀬能とはいえ…力をセーブしたままで、それに気付かせずに今まで抑える…か…」 誰に話すでもなくただ言葉を続ける。 「瀬能に引っ張られるだけの典型的なリードと侮ったが…本当の意味で引っ張っていたのは奴か…」 ちらりと視線を巽に送り…笑う。 「ふふ…見事だ…巽 慶一郎…同じ捕手として身震いする…」 自身と同じ捕手として完璧に欺いてきた巽に素直に敬意をあらわす。 この間に9番柳が7球でサードゴロに倒れると、続く1番の阿久津は5球目の内角の直球に見逃しの三振をきっする。 「あんまり…好きにさせるわけにはいかないよな?」 監督が唐突に大きな声で問い掛けると… 『はいっ』 全員が声を揃える。 その心にあるものはただ一つ。 『(なめるな…)』 力をセーブした瀬能に抑えられていた王者の意地が膨らむ。
/270ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8217人が本棚に入れています
本棚に追加