たった一試合のエース

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陸「………」 普段よく喋る陸もこの打席だけは一切口を開かない。 陸「(打つ…)」 この試合2打数無安打四球一つとリードオフマンとして機能出来ていないと感じている陸…巡ってきたこのチャンスに全てをかけるかのように気合いが入る。 初球、外角に速い球。 ややボール気味の球に陸のバットが動く。 香月得意の速いシンカーが手元で沈む。 キンッ! バットの先に当たり力の無い打球が3塁線に転がる。 が、僅かに切れる。 「ファール」 陸「(ふぅ…)」 小さく一つ息を漏らすとすぐに構える。 その様子を後ろから城が見つめる。 城「(打ち気が出過ぎだ…)」 2球目、3球目とボール球を振らされてカウントは2ストライクノーボール。 陸「(くそっ…チャンスだってのに…)」 焦るほどにボールの見極めが難しくなるが、なんとかファールで逃げ続ける。 城「(ストライクはいらない…ストライクからボールになる変化球でいい…)」 城が香月にサインを送る。 1球カーブが抜けて大きく外角へ外れる。 そんな球にすら陸の体は動こうとするが必死で押し止める。 陸「(あんな球にまで…)」 自身の反応に驚くと、ふぅっとまた息を漏らす。 陸「(違う…俺は俺の役目を…)」 続く7球目、内角に切れ込む際どい直球に陸のバットは動かない。 「ボール」 そして8球目の外角へ逃げるシンカーにも全く反応せずにカウントはフルカウントになる。
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