たった一試合のエース

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城からのサインに頷いて森が足を上げる。あまり高く上げることはなく右腕は弓をひくようなフォームから腕を振り下ろす。 外角への直球。 バンッ! 城のミットから鈍い音が響いてボールがおさまる。 「…ストライクッ!」 1テンポ遅れて審判の声が響く。 その姿を瀬能は微動だにすることなく、見送る…いや、微動だにすることも出来ずに見送る。 呆然としていたのは瀬能だけではなかった。 捕球した城がストライクのコールを確認するや否や3塁に送球する。 結「っ!」 結城が慌ててベース戻るが… 「アウトッ!」 間に合わずに審判の声が響く。 そこに至ってはじめてスタンドがざわめく。 僅か1球で同点のピンチを切り抜けた森が悠然とマウンドからベンチに向かい歩き出すのを見て、スタンドのざわめきは一気に歓声に変わる。 瀬「(おいおい…嘘だろ?)」 呆然としながらも瀬能、結城、陸の3人がベンチに帰っていく。 158km…中継のテレビに示された数字に実況の声が大きく響いていた。
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