たった一試合のエース

46/117
前へ
/270ページ
次へ
打席には3番の有働が入る。 瀬能がゆっくりと足を上げての初球…内角高めの速い球に有働のバットが動く。 キィンッ! 打球は鈍い音を立てて1塁側に切れる。 有「シュートか…」 ぽつりと一言漏らすが、また普通に打席に入る。 外角に逃げるカーブを1球見送った後の3球目、もう一度外に逃げるカーブになんとか反応はするが3塁線を割って2ストライク1ボールとなっての4球目、瀬能が投じた球は内角高めの速い球。 初球と同じように有働のバットが動く。 そしてボールも初球と同じように手元でボール一つ分だけ食い込む。 キィィィィィンッ! 鋭い音を放つ打球がライト方向に飛ぶ。 巽「(アジャストしやがったっ!)」 「ファール」 初球に詰まらされた球に見事に対応した有働のバッティングではあるが、打球は僅かに切れてファールになる。 有働にとって得意なコース故にボール一つ分外れていても振ってしまっていた…それが僅かにヒットとファールを分ける。 そして5球目、瀬能はゆっくり足を上げて踏み込む。僅かに右足を1塁よりに…瀬能と巽以外には気付かない程僅かに踏み込む。 有「(遠いか…?)」 外角の速い球に有働が踏み込んで…止まる。 巽が普段よりほんの少し肘を伸ばして捕球に入る。 パァンッ! ミットを押し込もうとする球を手首から内側に力を入れて、同時に伸ばした腕を僅かに戻しながら捕球するとミットから乾いた大きな音が響く。 「ストライクッ!バッターアウトッ!」 審判の腕が上がる。 有「なっ!」 思わず声の上がる有働。しかし、確かに審判の腕は上がっていた。
/270ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8217人が本棚に入れています
本棚に追加