たった一試合のエース

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城が打席に入るのを見る瀬能は僅かに顔をしかめる。 瀬「(城…すまん…)」 真ん中低めのカーブ、外角の直球と2球ボールが続くが、城は微動だにすることなく見送る。 続く3球目、内角にやはりボール気味の直球に城も動かない。 しかし… 「ストライク」 審判の腕が上がる。 瀬「(なっ!)」 巽「(っ!)」 巽は愚か、投げた瀬能本人すら驚くことにボールはストライクゾーンを通過する。 城「(瀬能…限界なのか?)」 城はストライクだったこと以上にボールそのものの質に驚いていた。 捕っている巽もまた… 今の瀬能の直球にはあの手元で伸び上がるようなキレが感じられないどころか、僅かにシュート回転して狙ったコースを外れるようになっていた。 その直球ではやはり城と勝負することは出来ずに外角に2球外して、敬遠気味の四球を城に与える。 城「(…瀬能…それでは抑えきれんぞ…)」 城が1塁へ歩きながらそっと瀬能の見る。 かつての相棒が苦しむマウンドには自分ではなく巽の姿がある。 二言三言交わしてすぐに巽は戻っていくが、その振り返るときに城と巽の視線が合う。 城「(ふっ…あそこにいるのはもう…俺じゃない…か…)」 微かに笑ってすぐに顔を引き締める。 その時、西京学園の監督が代打を告げていた。
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