たった一試合のエース

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橋「(お前の球だけは…そうは打てなかったな…俺も…城も…)」 瀬能の西京学園時代、最も打っていたのは打率では東條、そして長打は久住…橋爪と城も恐るべき強打者ではあったが、相性がいいとは言えなかった。 橋「(でもな…あれから一年……)」 一年の空白が橋爪と瀬能の距離を近くした…今や橋爪にとって瀬能の球は打てない球としてはうつっていない。 橋「(打つ…)」 セットポジションから腕を振るう瀬能の指からボールが放たれる。 内角に沈むカーブに橋爪のバットは動かない。 「ストライク」 審判の声にも橋爪は気にせずにタイミングをはかる。2球目、3球目と内外に投げ分けてカウントは1ストライク2ボール。 瀬「(相変わらず…きっちり見送るな……巽…わかってるよな?)」 際どいコースを難無く見送る橋爪を見ながら巽に視線を移すと、巽もまた「わかっている…」そういった表情でサインを出す。 そしてそれは瀬能が望む球であった。 しっかりと頷くと、セットポジションから腕を振り抜く。真ん中低めへの速い球に橋爪のバットが動く。 クッ! ブンッ! ズバンッ! 「ストライクッ!」 手元で急激に滑る高速スライダーに橋爪のバットが空を切る。 橋「(くぅ…高速スライダーか……切り札をきってきたか……)」 肘に負担の大きい高速スライダーでカウントを整えてからの5球目… 巽のサインにしっかりと頷いた瀬能の足が上がる。 橋「(でもな…切り札は最後までとっとくもんだっ!)」 橋爪のバットが動く。
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