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救急車の中で横たわる祖母・軍野さんを見つめながら、穀保は今にも泣き出しそうな顔で唇を噛み締めていた。
必死に平静を保とうとしているのが伝わって、有明はそっと穀保の背中を撫でてあげた。
救急車が近くの病院に到着し、軍野さんが運ばれていく。
「お付き添いの方はこちらでお待ちください」
看護師に言われた2人は、すぐそばにあったベンチに腰かけた。
静かな夜の病院内に、カチ、コチ、とやけに時計の秒針の音が響いている。
先に口を開いたのは穀保だった。
「すみません先生…こんな所まで…」
「いいんですよ、ご家族が倒れたら誰でも不安になるでしょう?気にすることはないですよ」
「…先生…」
穀保は有明の顔を見て、力無く笑った。
「私…小さい頃に母を亡くしていて…お婆ちゃんは私にとって母でもあるんです」
穀保は今にも消え入りそうな声でぽつぽつと話しはじめた。
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