加津佐さんの失態

5/7
1313人が本棚に入れています
本棚に追加
/118ページ
加津佐は有明の隣に再び座り直した。 有明が俯いたまま話し始める。 「この前の出張の時、出張先の高校の理事長と偶然知り合って…そしたら…高3の孫と結婚を前提に付き合ってくれないかって言われて」 「え?なんでお前なの?」 「そのお孫さんていうのが、この間一緒にボランティアに参加してた生徒の1人だったんだけど、その子は将来介護の道に進みたいらしいんだよ。でも高校を引き継ぐ人材も必要だから、教師の俺と結婚すれば安泰だろうって考えたらしくて…」 「じゃあその子と結婚すればお前はいずれ理事長ってことになるわけ?」 「いずれはそうなるんだろうね」 加津佐は突然の話にただただ驚いて目を丸くした。 「断らなかったのかよ」 「断ったよ。でもすんなりと聞き入れてもらえなくて、来週改めて会って話をすることになってる」 「…なんか一筋縄じゃいかなそうだな」 「だから参ってる。何をどう話して断ればいいのか」 「“付き合ってる人がいます”とか“結婚する予定です”とかでいいんじゃないの?」 「そうだけど、ヘタに探りを入れられたりでもしたら…」 まだ在学中の瑞穂をもし巻き込むようなことがあったらと思うと、有明の心中は穏やかではいられなかった。 有明の脳裏に一瞬瑞穂の笑顔が浮かぶ。
/118ページ

最初のコメントを投稿しよう!