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壱陽
――我、此の者を迎えん。
一羽の烏は久々にその
深紅の眼を開き、
かすかに開いた障子から
紅が増していく空を
まるで自分の敵のごとく、あるいは愛しい想い人のごとく
遠く、
あるいは近くを見つめ。
紅で染まった唇が開き、
一言、言霊を放つ。
「……―近い。
…もうすぐ…やっと…」
その顔は、
黒く、長い、
絹糸のような髪に隠れている。
口元が笑みを浮かべたとき、一羽のカラスが、
一声哭き、
大きく羽ばたいて
夕暮れの朱の中へと消えた。
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