壱陽

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―――ざわめく街。 商人たちの客を招く 元気な声。 子供たちが道を 走り抜けていく足音と声。 刀を持った者たちが 何も咎のない農民に 深々と頭を下げさせ ふんぞり返る姿。 物乞いを哀れむ姿、 忌ましめる囁き。 どれも毎日変わらず、 平淡で、変化もない。 そんなものを眠たそうな 顔で道を歩く青年が歩いている。 物書きの老人がその青年を呼ぶ。 「壱陽や。」 その声を聞くと、 壱陽と呼ばれた青年は その老人へと目を向け 返事をした。 「なんだよクソジジイ。 十日も顔を見なかった からてっきりくたばって、 あの世で物書き やってるかと思ったら。」 老人は、ほほほと笑い、 「何を言うか。お前という奴は、 何と失敬な。 この親不孝者めが。」 壱陽は笑い、 「は。親が居たら ぶっ殺してやらぁ。」 と鼻をならした。 老人は壱陽に言った。 「頼まれ事をしてくれんかの。」 壱陽は老人を見て、 「金は。」と言う。 「先払いで良いぞ。 まぁうちまで来んか。」
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