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「キミは本当に面白いね」
真っ白な世界の中、全てを見透かすような目でセンセイは笑った。
広い部屋に赤い革のソファ。ガラステーブルに置かれたアロマポットからは花の香りがした。
センセイはすらりとした長身で短く切り上げられた髪は男性みたいだった。白衣を翻してセンセイは俺に紅茶を出した。
「俺面白い?」
センセイは小さく笑った。俺はセンセイの方が面白いと思う。綺麗な顔してるのに女性とも男性とも判断できない空気の人。
まるで誰にも捕らえる事ができない人。ただ分かるのはこの病院で精神科医をして俺を診察するでもなく週一回俺を呼んで話すって事だけ。後は『水無月』って苗字だけ。
偶然にも弟と同じ名前なのは親近感を感じた。
「本当にキミはまだ恋をしたことが無いんだね」
「人はいつか死ぬのにソレは必要なの?」
「キミらしいね。キミはあの日から変わってないね」
センセイの全て見透かすような目は綺麗で俺の何を見ているんだろう。
「センセイは俺と話して楽しいの?」
「楽しいよ。キミが何を考えてるか分からないからね」
センセイは可笑しそうに笑って時計を見た。休憩時間が終わったんだ。またセンセイとは来週だ。
「じゃあ来週、この時間ね」
センセイはにっこり笑って紅茶を片付け始めた。
センセイは俺の予定を聞かず次を決める。俺が行けない日が無いかのように。
センセイは俺が来ないとは思ってないんだ。
俺も行かないとか拒否る事はしないけど。
だってセンセイとの会話は楽しい。あの頃空意外に楽しかった時間があるならそれはセンセイとの会話だった気がする。
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