第一章『死夜狂咲』

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ごめんね、ちょっと思い出しちゃって。続けるね。 彼女がいたのは田んぼの中だった。這いつくばった姿勢で泥だらけになりながらなにかをしていたの。 私は慌て彼女の元に駆けよって……。 見ちゃったの、白眼を剥いた彼女が両手で一心不乱に泥を口に入れて食べているのを…。 明らかに正気じゃなかった、泥を食べながら、端々で『ヒャはヒャは』と笑う彼女はどう見ても手遅れなくらいに気が狂ってしまっていたの。 私が側に居るのに全く気がつかない。 直ぐに救急車を呼んだわ。でも、その場に留まっているのは怖くて乗ってきた自転車で全力で逃げた。 薄情者でしょ?冷たいでしょ?友達が大変なのに見捨てて逃げたの。 でも…彼女がそうなった原因がまだ近くに居るなら…私まで……そう思ったら…………………。 「オーケイだ、もう良い。だいたいわかった。」 とある事務所の一室、パイプ椅子に腰掛けた青年が気だるそうに片手を振ると、カチリと二人の会話が途切れる。 テープレコーダーの停止ボタンが押された結果だ。
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