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「何のつもり?これ、誘拐よ?犯罪なのよ?何が目的なの?!」
「うん?目的かぁ…そうだね、強いて言うなら『実験』、かな?君を拉致することで彼女の世界がどう変わっていくか、狂っていくか、壊れていくか、オレはそれが知りたいんだよ。」
恐怖を押し殺して気丈に声を放つ綾橋に、少しばかり考えた上で、そう答える。
「彼女のって……まさか、ツムのこと?」
「ツム?ああ、そんなニックネームなんだ?うん、たぶんその子。」
血の気が一斉に引いていく、この声の主は始めからつむぎを標的にしていたのだ。
彼女に対する『餌』として、親友である自分が選ばれた。
「ツムに何かしたら、許さないから……!」
「はい?どうして?許しを得る必要なんてないでしょ?君は、道を歩くのにいちいち許しを得ながら歩いてるのかい?」
「……は?何を…?」
「人間は歩くだけで、何千何万何兆の微生物を踏み殺してるんだよ?それと同じだよ、日常的に行われる事柄については、些細な犠牲は無いに等しい。でないと、一歩だって前に進めやしないからね」
綾橋や新堂たち、いや、恐らく自分自身でさえ日常的行動として踏み殺すことを当然とした答え。
完全に『破綻している』
人間として『終わってしまった』思考の展開。
綾橋は改めて『彼』の異常を認識した。
同時に、反論する気力がつきる。これ以上言葉を交わすべきではないと本能の部分が警鐘をならす。
「あれ?もうお仕舞い?久し振りの良く話す子だったのに、残念だ。もう話すことがないなら、そろそろ行こうか。」
綾橋の足を掴み、引きずり始める。
「え?!ちょっと!何するの?!何処に連れてくつもり?!」
「良いとこだよ。気が触れるほどに良いとこに今からつれていってあげるよ。」
引きずられて連れてこられたのは襖で仕切られた部屋の前。
無造作に開かれたその中に押し込めるように入れられる。
「さぁ、君がよく知っているはずの誰かがそこにいるよ。久々の旧交を温めたまえ。」
「なによそれ?!ねぇ!どう言うこと?!」
『彼』は黙って中に入ると、パチリと電気をつける。
「命や意識や心というものは、ただそうあると言うだけの、自然現象なんだよ。その結果がここにあり、君もいずれこうなるのかもしれない。」
明るみに出た室内の状況に、綾橋は目を見開き、悲鳴すらあげる暇もなく、現実から逃避するためだけに意識を失った…………………。
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