第一章『死夜狂咲』

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目に見えるもの全てが現実とは限らない。 口にすること全てが真実、又は、虚構のどちらかとも限らない。 真実も虚構も、全て信じるに値しない。 ならば、私はこの目に映る<事実>のみに従って動く。 真実も虚構も必要ない、 私に必要なのは『今、瞳に映ることのみ』だ。 そして今、目に映るモノは・・・・暗い夜空と赤い水・・。手の中の刃物にがひんやりと心地いい。 これは、死に往く夜に狂い咲く、視野狭窄者の独り言・・・・。 ああ、今夜は、なんて気持ちの良い夜なんだ・・・・。                      episodeⅠ『新堂つむぎ』 <新堂つむぎ>は、今、自分自身の目の前にある状況が正しく理解出来ないでいた。『平和に平穏に平凡に平坦に何時もどおりの日常が始まるんだなぁ』と、考えていたわけではないにしろ、それでもやはり、新堂にとっては明らかに常軌を逸した光景であり風景だったのは完膚無きまでに間違いないことである。 早朝、通学路に『明らかに人であると解る死体』のある風景。 びっくり過ぎて逆に冷静になれるというものだ。 新堂も例に漏れず、悲鳴を上げるより先に携帯電話を取出し、専門家に通報する姿勢を見せた。『午前、7時15分を、お伝えします。』ぴっぴっぴっぽーん。 時報と間違えていた。冷静ではなく静かにパニックになっているだけのようである。 しばらくして新堂は『ぽん』と手を打ち、数回頷くと、そのまま『死体』を迂回して通学に戻っていった。 それから、もう数十分後に通りかかった主婦の悲鳴がその『死体』の存在を世間と警察に知らしめる最初のきっかけとなった。
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