第一章『死夜狂咲』

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[事件発覚]PM0:15分  人が一人、どこでどんな死に方をしていたとしても、全く知らない赤の他人である限りは関心の対象にはなりにくい。 テレビの中で見る紛争地帯の風景と何ら変わらない。つまり、現実感がない。 だから、何処までも無関心でいられ、無責任でいられる。 身の回りに降り掛からない火の粉は避ける必要はないからだ。 新堂のクラスメイト達も、その例に漏れない。 「ツムの通学路じゃない?あんた見なかったの?」 教室で昼食を摂りながら、友人である『綾橋 彩名(あやはし あやな)』が振ってきたその話題に、新堂は小さく頭を横に振った。 「知らない。」 それが嘘であることは、新堂自身しか知らない事実である。新堂は目立つことを避けるために、あえて今朝目にした死体の話しはしなかった。深い事情があるわけでもなく、日常に異物が混入されるのを嫌っての行為だ。 「興味ないし。そんなことより・・。」 新堂の視線が教室の席の一つに向けられる。 「ああ・・。これで四人目ね、うちのクラスの行方不明者。やっぱり、見知らぬ他人より、近くのクラスメイトの方が気になるよねぇ。」 綾橋は新堂の見ている空席をみた後、続けて三ヶ所の空席に目を走らせ、今朝の実感のない事件か事故よりも、もっと身近な異変を口にする。 「江本、坂井、石川、そして鈴木。一体全体何がどうなってるやら、時間ずらした集団家出?それとも、神隠し?ねえねえ、ツムはどう思う?」 「どうも・・。居なくなったものは運が良ければ見つかるし、悪ければ一生見つからない。それで良いんじゃない?どっちの結果になっても、それは居なくなったものの自己責任だよ。」 話題の深刻さに反して、まるで推理ドラマの続きを予想するように楽しげに目を輝かせる友人に対し、新堂の反応は淡泊なものだった。 「でもでも、神隠しなら自己責任うんぬんの範疇じゃないよね?」 「綾橋・・それ、本気で言ってるの?そんなものあるはずがないでしょ?」 「わっからないよー、実際に四人が原因不明の失踪を遂げてるわけだしね。案外、天狗かなんかに攫われたんだったり。」
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