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路地裏
その光景を見ていたのは一匹の黒猫だった。
「はぁ…」
路地裏の影。
倒れ伏した男達を見下ろし、一人の青年が小さなため息を吐く。
青年が綺麗な白髪を掻き上げるとガーネットのピアスが見えた。
薄暗い路地裏で、尚も輝きを忘れないその石は、彼の瞳と同じ真紅の光を帯びている。
彼は何かを探すように、ゆっくりと周りを見渡した。
やがて、隅で震える女の子を見つけた彼は女の子に近づくと笑顔で手を差し伸べる。
「大丈夫か?」
「っ!?いや!」
しかし、女の子はその手を振り払い、路地裏から逃げ出していってしまった。
「……ふぅ」
その小さくなる後ろ姿を見つめ、彼は小さく微笑むと、倒れている男達一人ひとりに何事か囁いていく。
「ひ、ひぃ!」
「た、助けてくれー!」
皆、一様に震え上り叫びを上げると、彼女と同じく路地裏から飛び出していった。
彼は、その様子を見て満足げに微笑む。
隅に置いていた鞄を指に引っ掛け、路地裏を出るために歩き出した……。
「ん……?」
が、急に彼は立ち止まり、辺りを見渡す。
路地裏の影に詰まれた木箱の陰から、見つめる黒猫を見つけた彼は、ばつが悪そうに微笑むと
「見られてたのか。それじゃ、これは、お前と俺だけの秘密だぞ」
しー……っと口に指を当て小さく微笑んだ。
「ニャー……」
黒猫は木箱に飛び乗り、くりくりした瞳を彼に向けると、元気に一鳴きした。
「……いい返事だ」
彼は笑顔で頷くと、踵を返して、そのまま路地裏を出て行ってしまった。
「ナォー……」
黒猫はしばらく彼を見つめていたが、また一鳴きすると、後を追いかけ始めた。
「 はーーじまるよ!!! 」
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