マオウと呼ばれる者

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マオウと呼ばれる者

路地裏を出た彼を、出迎えたのは通りに立ち尽くす人々だった。 皆、路地裏から出てきた彼を、奇異の目で見つめている。 「………」 路地裏から衣服の乱れた女の子が、怯えた表情で飛び出して来たあと、怯えた集団が泣き叫びながら、ぞろぞろと出てきた。 そして、今、その路地裏から出てきた彼を見た時、人々は男女が怯えながら走り去った理由を理解したのだった。 『あぁ、アイツかー』 人々の中で誰かが呟いた。 彼が居るところでは必ず誰かが泣き叫び、助けを求める。 この街では日常茶飯事の光景。 彼は街でも有名な不良で、その知名度は芸能人の比ではない。 この街は勿論、隣街の不良や暴走族、暴力団までもが畏怖する存在。 『マオウか、今日は何をしたんだ?』 誰かまた呟いた。 彼はその言葉にピクリと反応すると、マオウと呼んだ人物へ歩みよる。 「え?」 真紅の瞳に見据えられた男は固まってしまった。 「マオウじゃない。マオだ。神守(カミモリ)真和(マオ)。それが俺の名前だ」 「あ、あぁ!マオね!真和さんか。それは悪かった、すまないね。」 男は軽いながらも頭を下げ、謝罪する。 真和は満足したのか、にっこりと微笑むと踵を返して歩き始めた。人々は無言でその背中を見送ると、ほっと胸を撫で下ろす。
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