マオウと呼ばれる者

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人々が真和を見送っていると"チリン♪"と鈴の音が聞こえた。 人々は足元から聞こえた音の正体を確かめるために視線を巡らす。 バタバタとする集団の中から飛び出て来たのは一匹の黒猫。 黒猫の首には黒いレースの大きなリボンと鈴が付けられていた。 「猫?」 黒猫が真和の後ろを、つかず離れずの状態で歩いていく。 「あの猫…魔王は気付いてないのかな?いつも、魔王の近くに居るんだけど」 と誰かが呟くと、私も見た、俺も見た、僕も見たと彼方此方から声があがる。 「ペットかな?」 と女子高生が首を捻る。 「ペットか……。なら、あの猫が車にでもひかれた日にはこの街は火の海に包まれるかも」 と、青い顔をして学生が呟。 「…やりかねない」 皆も同様に青い顔をして大きくため息を吐く。 「でも、あの魔王がよく動物を近づけるよな。蹴り飛ばしそうだけど」 「動物好きなんじゃない?」 「そういえば、先週、ペットショップのショーケースを凝視してたの見た!店員さんに怒られてたけど…」 「河原にいた捨て猫に餌やってたな!後で見たら招き猫みたいに丸々と太ってたけど…」 「ウチの犬が脱走した時、見つけて届けてくれたわよ!チワワなんだけど、帰って来たときは軍用犬みたいになってたわ…。凄くお利口になっててね!先日、また脱走したと思ったら、お隣に入った泥棒に食らいついていたのよ!」 「「「うわー…」」」 主婦の言葉に周囲の人々は、言葉を失った。 「魔王…いいヤツなんだけどな…やり方がマズいんだよな」 と誰かが呟くと、皆は苦笑しながら頷く。 そう、魔王と呼ばれる彼は、別に悪人ではない。 やることがハチメチャなために誤解され、誤解が噂となり、尾鰭が付いて恐怖の存在と謳われるようになったのだ。 真和の本当の人柄を知るのは、救われた本人たちくらい。 さっきの女の子も落ち着けば気付くだろう。 真和は本当はとても優しく真っ直ぐな人物だということを……。 まぁ、本人は認めちゃいないが。 「本当に"ハチャメチャな正義の味方"だよ...」 先ほど絡まれた男がポツリと呟く。 人々は同感だ、と大きく頷くと、暖かい目で小さくなっていく彼と黒猫の姿を見つめた。
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