魔王と神様

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魔王と神様

「こ、ここに…神様がいるのか?」 「はい!」 うきうきのサタンに連れて来られたのは、街の一角にある小さな喫茶店だった。 看板には『小さな奇跡』と書かれている 「さぁ。行きましょう!真和様!」 「あ、あぁ」 "カラン♪カラン♪"と喫茶店らしいベルの音が店内に鳴り響く。 「マスター!只今、戻りました!」 「やぁ!お帰り、サタン」 優しくも、深みのある声に目を向けると、短い口髭を生やしたマスターがこちらを見て微笑んでいた。 「マスター!真和様をお連れしました!」 「ご苦労様、大変だったろう?さぁ、座って。飲み物をご馳走しよう。真和もこちらにどうぞ」 笑顔でカウンターに座るように促した。 「あ、ありがとう……」 「わぁ!タダですか!?マスターの奢りですか?」 「勿論だとも。何が良いかな?」 「じゃあ……オレンジジュースで」 「私は……ミルクで!」 「はは……。分かったよ」 マスターが笑いながら作業を始める。 「なぁ、まさかと思うがマスターが神様なのか?」 「はい!全知全能の神であり、七日で世界を創った方ですよ」 見えませんよね?とサタンは笑いながら、マスターの背中を見つめる。 「しかして、その正体は!しがない喫茶店のマスターでしたっと、お待たせ、オレンジとミルクね」 神様は苦笑しながらも目の前に手際良くドリンクを置いていく。 「でも何故、喫茶店なんか始めたんです?」 「ふむ、始めた理由か……そうだね。強いていえば"理由がないから"だろうね。ゆっくりとした時間を楽しみたくて、世界の監督を天使たちに任せたのは、いいんだけど……どうにもやりたいことを見つけるのに時間がかかってしまってね。だから、見つけるまでの手遊びとして喫茶店を始めたんだが、これが実に奥が深い……うむ……。すっかりと、のめり込んでしまって、今は、ここに落ち着いているんだよ」 「なんか、奥が深いような、浅いような」 「はは……!それは見る人によって変わるさ。人は千差万別だ。だからこそ人は面白い。真和、君も大変に興味深かった」 コップを磨きながらにこやかに微笑む。 「そう?」 「流石は私の息子だ。死後に全てが報われるとは、兄のイエスと同じだね」 目を細め顎髭を撫でると苦笑した。 「は?」 神様の言葉に首を捻る。ああ、そういうことか "人は皆、神の子"だもんな。 「いや、違うよ?君は私の実の息子なんだ」 と顎に手を当て神様は深く頷いた。
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