黒い記憶

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数十年来となる警鐘の音が、小湊町の一大事を告げた。 次々に上がる火の手と黒煙。 そして様々な物が焼け落ちていく音に、断続的に悲鳴が鳴り響く。 絶え間なく響く鐘の音は人々の混乱を煽り、炎はその音に合わせるよう沸き上がり踊る。 道の脇にある草木も燃え、あるものは倒壊して人を巻き込み焼き上げる。 そんな地獄絵図のような町並みを駆け回る人の中に、齢16になる河内信也はいた。 火の海と化して世の末のように混乱した町は、例え暮らしなれた住民といえどもまともに歩き回ることができないほどに荒れていた。 それは信也も例外ではなく、陸側の山間の一本道を抜けた普段からよく通る道を抜けてきたのに自分の家のある方角がはっきりとしない。 腕っぷしのいい漁師と数少ない消防士が協力して消火活動が始まった頃に、ようやく信也は火の手が上がり玄関から黒い煙を吐いている自宅に辿り着いた。 それは火災が起きてからすでに一時間が経とうとしているときだった。
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