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太陽が西の住宅街やビルに溶け込んで、校内がオレンジ色に染められた頃。
俺は音楽室からその景色を眺めていた。そこには「綺麗」だとか「寂しい」だとかそんな感情はない。ただ、眺めているだけ。
ふと、校舎の下を見る。生徒数人が騒ぎながら下校していた。それを見て笑いがこみあげた。なんてことはない、ただの日常なのに。
その日常を見て笑うなんて、多分あの子が来なかったら見過ごしてた。
「会って数日のくせに」
そういってピアノを開けた。
何を弾こうか。ポンポン、と音を鳴らす。この音楽室のピアノはいつもきれいな音だ。
久しぶりに可愛らしい曲でも弾いてみようか。なんて最初の音を叩いた。
――……曲目はメルト、なんて、俺は何を考えて選曲したんだろう。恋する女の子の曲なんて。
それでも、よく指に馴染んだその音は止まることなく鍵盤の上でメロディを刻んだ。
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