6人が本棚に入れています
本棚に追加
「綺麗な曲だね」
「うん、……1番好きだった歌」
「好きだった……?」
しまった。
「あ、あぁ、うん。いい曲がたくさん出るからね。今は違う曲が1番」
「そうなんだ」
今の俺はちゃんと笑えていただろうか。お得意の笑顔で答えただろうか。
少女は目の前で「出来たらもう一回聞きたい……っいや、別にいいっ!」と何故だかあたふたしながら言う。
……。そうやって俺が少し黙るとまた慌てて「別に弾かなくてもいい!忘れて!」と顔を背ける。
そういう態度は全く似ていないのに、連想してしまうのは、何故?
黙りこくった俺を盗み見るように目線だけこちらに向ける。
……そうだ、笑おう。笑ってもう一度俺は弾けばいい。
忘れよう、思い出したことなんて。笑顔で塗り潰せばいい、過去なんて。
目の前で今か今かと待っている彼女のために弾けばいい。それに意味はない。
弾いてと言われたから弾けばいい。そう、笑って「いいよ」と言えばいいだけ。
「いい…」
――ガラッ
「稜揶、お前いつものとこにいろよ!」
「……」
「……」
俺の返答と被るように音楽室の扉がスライドされた。
「あー、……お邪魔でしたね」
「……いいよ、もう。入れば」
「ごめん、白雪さん」
「何が!?」
謝る和傘のみぞおちに強烈なボディーブロー。彼女の照れ隠しは素晴らしくバイオレンスだ。
身悶える和傘に心の中で合掌した。火の粉はかかりたくない。
「笑うなよ、稜揶……」と和傘が息絶え絶えに言うが悪いけど笑顔はデフォルトなんだ。
最初のコメントを投稿しよう!