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2章・小さな異変
「!?これ……」
マスターに言われ、街のすぐ外にやってきたマティアは絶句する。
「ギルドの方ですよね?良かった……困ってたんですよ」
そんなマティアに衛兵の若者がほとほと困り果てた様子で話しかけてくる。
「びっくりしましたよ。いきなりこれを預かっておいてくれって言われまして」
衛兵の言葉も耳に入れず、マティアはそれに近寄り、確かめる。
「リオレウス……しかもこの甲殻や鱗の質は間違いなくG級のもの」
既に絶命している火竜をもう一度眺める。
「あの子達、まさかここまでのハンターだったの……?」
狩った獲物を見れば分かる。そのハンターの腕がいかほどか。
的確な部位破壊。急所へ針穴でも通していくような弾痕。滑らかに斬り裂かれた腹部。焼き尽くされた内部。
「可哀想な程ね……」
横たわる空の王者はその瞳にかつて自らのモノだった大空を映している。
ふと思う。
「このリオレウス……一体〈どこで〉狩ってきたのかしら……?」
そう。この辺りにこんな強力なモンスターは確認されてない。観測所からの報告も受けていない。思考する彼女に、衛兵が答える。
「どうもすぐそこの樹海にいたみたいですよ。いやあ何かある前に見つかって良かったですよ」
ピクリと。……樹海。この街から最も近い樹海には、G級はおろか、飛竜種すら確認されてない。鳥竜、中でも下級のイャンクック程度が君臨する生態系だった。それは街にギルドを作る前、調査した自分がよく分かっている。
今までいなかったはずの飛竜に襲われた村に樹海に突如として現れたという火竜。どこからか飛竜が流れてくるという話は無いわけではないし、偶然といえばそうなのだが……。
言い知れぬ不安。マティアの思考に何かが引っかかっていた――。
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