2章・小さな異変

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 少女は猟銃に飛びつき、背を壁に預け、イーオスへ銃口を向ける。  森で父親が鳥を狩ったのを見ていた。引き金を引けば弾が出る。弾が出れば――。  指が震えて上手く引き金にかからない。 「ああああ…あうっ…ひっ…」  少女の嗚咽が漏れる。焦る。  イーオスは口を大きく開き、獲物へ食らいつこうと――。  バガン!  猟銃が火を噴き、至近距離から出た弾丸は、イーオスの大口の中で破裂し、イーオスの頭を吹き飛ばした。 「はぁ…はぁ…ひっく…」  涙と汗で顔をクシャクシャにした少女は、ぺたんと座り込む。それは、危機を乗り越えた安堵からくる脱力……ではない。  クギャックギャッ!  それは、イーオスが引き裂いた壁の向こうに、他のイーオスが集まって来ているのを見てしまった、絶望からくる脱力。  逃げ場は無い。猟銃に込められた弾も少ない。それでも。  少女は猟銃を握る手に力を込め、震える脚を立ち上がらせる。  生きたかった。誰がどう見てももう助からないこの状況でも。  食らいつこうとするイーオスに引き金を引く。残り2発。  部屋を出てまた別のイーオスに引き金を引く。残り1発。  裏口から出る。待ち構えていたイーオスにまた引き金を引く。残り0発。  イーオスが走ってくるのが見え、引き金を引く。弾はもう無い。走ってくる。引き金を引く。何度も、何度も引く。ただの棒となった木と鉄の塊は、カチカチと虚しい音を出す。 「――――っ!!!」  声にならない叫びをあげ、少女は役立たずの棒切れを投げつける。  イーオスはそれを気にも留めず、ただ獲物に飛びつく。  その瞬間、辺りに赤黒い血飛沫が舞い散った。
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