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血飛沫は少女のものではない。
イーオスが少女に食らいつこうとしたその瞬間、イーオスは頭部が弾け、横合いから飛来した白い巨大な塊に、胴を貫かれ、巨木に磔られていた。
少女は白い塊を呆然と見つめる。よく見ると、それには刃がある。ハンターの持つ大剣。巨大な飛竜を斬り伏せる為に鍛えられた、大き過ぎる武器。その刀身の柄に近い部分に、血のように赤い色で文字が掘られていた。
「アン……セス……?」
少女には意味が解らなかった。解る必要もない。
残ったイーオスが集まり始める。
少女はもう震える必要がない。
「頑張りましたね。もう大丈夫です。他の村の方々も安全な所に隠れて頂いています」
透き通った声が少女の心を抱き締める。
「アナタの御父様と御母様に頼まれて、アナタを探していたのですが、なかなか見つけられず、焦りました」
声の主は、落ちていた役立たずの棒切れを拾い上げ、少女に手渡す。
「誇って下さい。アナタが勇気を出して戦ったから、私はアナタを見つけられました。アナタの命を救ったのは、アナタの勇気と……それです」
役立たずだった棒切れを少女は見つめる。
「その銃はきっと、アナタの御両親の想い。その想いが、私をアナタの元に呼び寄せてくれました」
イーオスを巨木に磔ていた大剣を引き抜く。同時に、〈彼女〉の身体の周囲に青白い雷がうっすらと膜を張る様に走る。
「ここからは私が私の誓いに従って、アナタを守ります。その御両親の想いの代わり……という程にはいきませんが」
少女は両親の想いを抱き締め、〈彼女〉の姿を見た。
白い大剣を振り上げ、白い肌を露出させた青白い装束を着込み、頭部には青い角の付いたカチューシャ。赤いイーオスの群れの中に、青白い光放つその〈彼女〉は神々しいとさえ思わされた。
少女の頬を涙が伝う。その涙からは先程までの哀しい意味は既に失われていた。
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