3章・Guardian Angel

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 鎧竜はすでに手負いだった。傷ついた体を引き、辿り着いたこの場所で邪魔な人間を追い払い、漸く得た休息。だがそれをまた邪魔され、怒る。  鎧竜の口から火炎混じりの息が漏れる。大地を踏みしめ、巨体を旋回させ、重い鉄球の様な尾で薙払う。  ガァン!  しかしそれは届かなかった。蒼い盾に阻まれ、〈止められる〉。 「なかなかの力だ。だが、尻尾程度では私を後退させる事も出来ん。せめて体当たりで来るべきだったな」  鎧竜は尾に力を込めてもう一度ぶつけようと振り上げる。  硬い甲殻で覆われた尾は見た目に反して滑らかに動く。滑らかに動くという事は可動域が多いという事。それはつまり――。  鎧竜は尾を振り切った。しかし手応えは無く、ただ尾を空を切った。 「ごめん……ね……」  可動域が多いという事はそれだけ甲殻の隙間が多いという事。その隙間から鎧竜の尾はナルの双剣に綺麗に切断された。  バランスを崩し、鎧竜は前につんのめる。その先には白い鎧を着た少女が紅黒い得物を向けて待ち構えていた。  少女は、リンは何も言わずただ引き金を引く。倒れ込む腹部をすれ違う様に冷たい何かが引き裂いていく。鎧竜が知る由もないそれは、水冷弾という。「アーリィ!今…っ!」  倒れ込んだ鎧竜の横腹に銃槍が突き立てられる。 「不運だったな」  突き立てられた銃槍の先に熱が集まり、弾ける。同時に水冷弾でひび割れた甲殻が吹き飛び、腹部の赤い肉が露わになる。  痛みをこらえ、鎧竜は巨体を起こし、目の前に佇むリンへ向けて熱線を吐き出す――!! 「リン…っ危ない……!」  リンは動かなかった。動く必要がなかったからだ。  すぐ側を熱線が抜けていく。そして、熱線を吐き終えた鎧竜にゆっくりと歩み寄る。  鎧竜は怯んだ。目の前の小さな人間程度に言い得ぬ圧力を感じて。その瞬間、腹部に痛みが走った。  ナルとアーリィの斬撃が交差し、腹部が切り開かれていた。 「何があったかは知らない。でも……ここはキミの住処じゃないから……!!」  ディスティアーレ。災厄の象徴とも言われる、ある龍を素材としたそのボウガン。  それから放たれた弾丸が、引き裂かれた腹部から鎧竜の内部に入り込み、跳ね、暴れる。  アオオオォォン!  断末魔の声をあげ、鎧竜の目から光が失われる。  手負いの鎧竜は見知らぬ土地でその生を終えた。
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