3章・Guardian Angel

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 人がいない。真っ赤に染まった村には、人の姿はない。  人の形をした影だけが、地面や石造りの建物の壁にこびりついているだけだ。  レニは走る。まだ生きている人間を探して。……ふと、声が聞こえた気がして、振り返る。 「どこ?どこですかっ!?」  視界の隅で崩れている家屋。その下から小さな手が見える。 「っっ!!」  思わず大剣に手をかけ、崩れた家屋を薙払う。幸い木で出来た家屋は簡単に吹き飛び、中から小さな少年が顔を出す。 「待ってて、今出してあげます!」  レニの声を聞くと、少年は薄く力の無い笑みを浮かべた。この時、少年は〈確かに救われた〉。だが。  ゴッッッッ。  上空から火の玉の様なものが堕ちてきた。 「あぁっっっ!!」  咄嗟に大剣を盾にしたが、レニは余波で飛ばされる。装備の防御力が無ければこの時、彼女も影になっていたかもしれない。  レニは飛び起きて少年が居たはずの場所を見る。  小さな影だけがそこにはあった。 「う、く。ううううぅぅぅうぅうう!!」  レニは力無く座り込み、ぼたぼたと大粒の涙を零す。レニの心の真芯は、目の前で起きたコトに完全に叩き折られた。  だから気付かなかった。アレが近くにいるコトに。アレが自分を狙っているコトを。  ゴガッッ  妙な音と、流れてくる熱風に、ハッとする。音のした方を見る。 「……グリフさん?」  目の前にはディアブロス装備を全身に纏った男が立っていた。しかし、彼の姿は何かおかしい。 「ああ、くそ、いっってぇぇ!あの野郎盾ごと右側持ってきやがって……」  男の右肩から脇腹にかけてが、丸々無くなっていた。 「グ、グリフさん!!」 「来んじゃねえ!!」  びくりとレニは動きを止められる。 「得物も心も折れたヤツがこっちに来ても足手まといだ」  その言葉を聞いて手に持っていた大剣に気付く。大剣は柄の部分を残して消滅していた。 「ランドの野郎も逝っちまった。いいか、こっから逃げて遅れてやがる化け物ハンターに俺の分も文句言って人数分殴っといてくれ。そいつがお前の責任だ」  男はそう言って残った左手で槍を構え、アレに向かって走り出す。 「とっとといきやがれええぇぇぇ!!」  男の気迫に圧されて、レニはおぼつかない足取りで、走り出す。とにかく遠く、遠くへ。
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