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どれくらい走ったろうか?気づけばそこは森の中。辺りには梟の鳴き声が木霊する。しかし。
振り返ると、見えた。こんなに遠く走ってきたのに、真っ赤に。そこだけが赤く、紅く、血の様に。景色に溶け込まない。
「うあ……あ……」
レニは膝を着く。逃げ出した。その事実が深く心を抉る。
「あらあら、随分派手にやってるのね」
背筋が凍る。恐る恐る後ろを向くと、そこには白いドレスの様な服を着た、白い少女がいた。
それは、白い肌に白い髪。瞳だけがルビーを埋め込んだ様に紅い、白い少女。その姿はとても神秘的で、気を抜くと存在を呑み込まれてしまいそうな気がした。
「アナタは……そう、辛いのね。いいわ、何も言わなくて」
誰だろうか。一瞬グリフの言葉が頭を掠めるが、目の前の少女はとてもハンターには見えない。
「ふふ……その顔。……気に入ったわ。いいものをあげる」
少女がそう言った瞬間、レニと少女の間にいつの間にか白い大きな塊がまるで初めからそこにあったかの様にそびえていた。塊には柄がついており、何となくそれが大剣だと理解出来た。
「それを使えば彼は退けられるわ。……但し、受け取るなら誓いなさい?アナタの想う事を。そして刀身にアナタの血で刻むの。その剣の名を。それが誓いの証」
夢だろうか。現実味の無い状況に躊躇う。だが。彼女は救いたかった(救われたかった)
剣を取り、指を噛み、その血で刻む。
「私は誓う!力無い人達を、救いを求める人達を見捨てない!」
叫び、走り出す。
白い少女はその背中を見つめている。
「綺麗ね、人って。綺羅星みたいにキラキラ光って、舞い散って」
白い少女はポツリと呟き、暗闇に溶けていく。最初からそこにいなかった様に。
まだ赤く燃え盛る炎に向かって走る少女の背中にある真っ白な大剣には、紅い文字で刻んであった。『アンセス』と。
「その想いは、誓いかしら?それとも誓いという名の呪いかしら……?ふふ……」
夜の闇はより深く。
燃え盛る炎はより紅く。
どちらもが走る少女を呑み込もうとしている様だった。
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